ガ島通信

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文章構成のためのフレーム「モジュールライティング」

魅力的な文章には「ストーリー(物語)」が重要と言われることがあります。そのために必要なのは文章の構成力ですが、この構成というのがなかなか難しい。
文章の構造というと「5W1H」や「起承転結」序論・本論・結論」などが知られていますが、そもそも「5W1H」は要素なので構成の参考にはなりません。「起承転結」は文章の流れですが、転がうまくはまらなかったり、オチがつくれなかったりして、悩んでいる人も多いのではないでしょうか。モジュールライティングは、初心者でも文章の構成・ストーリーが出来るようになるフレームです。
モジュールライティングは、昨年度から講義を担当している北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)の授業開発で生み出した、文章を必要な要素(モジュール)に分けて組み立てていく手法で、最大の特徴はあらかじめモジュールのセットが用意されているという点にあります(参考・モジュールライティングという発想)。
昨年度は、ニュース記事を書くということを前提に、「リード(概要)+詳細+コメント」というセットや科学記事(リリース)用の「リード(概要)+ニュースバリュー+発表内容+エピソード+研究分野の説明+識者コメント(評価)+識者コメント(反論)」セットなどを考え出しました。
「リード(概要)+詳細+コメント」は、新人の新聞記者がオンザジョブトレーニング(OJT)として担当させられることが多いイベント原稿で使われるパターン。社会面や地方面に掲載されている30行程度の原稿によくあります。例えばこんな感じ

●●で有名(ニュースバリュー)な絵本作家の展覧会が△△百貨店で開かれている+展示されているのは代表作の○○や新作の□□など☆☆点+来場した◎◎さんは■■と話している。

このようにあらかじめモジュールセットが用意されると新人でもある程度の取材が出来るようになるはずです。これに5W1Hを加えれば取材漏れも少なくなります。

CoSTEPでは、このモジュールライティングを自己紹介に適用して課題を出しています。
最初は「自己紹介を書いてくる」というざっくりとしたオーダーを出します。するとだいたいの受講生が、自己紹介なのに自分の仕事を説明したり、担当している仕事や趣味を羅列したものを提出してきます。タイトル、段落などもないものもあったりします。理系の大学院生が多いといこともあり

北海道大学●●研究科博士課程2年の△△です。研究内容は○○や□□で…

となることが多いのです。もちろん自己紹介という要件は満たしているわけですが、魅力的とは言えません。
講義でヒントを出した後、こちらの提示したモジュールのフレームにしたがって書き直してくるという課題を出します。今回は下記の条件で書き直してもらいました。

自己紹介を書き直し(あくまで主役は人!)

タイトルをつける、3段落で600字(1段落は200字程度)
・1段落 現在
・2段落 過去(きっかけ、エピソード)
・3段落 未来

要するに「型にはめる」ということですが、フレームがあることで何を、どこに書いたらいいのか明確になります。ある学生は以下のような自己紹介を書いてきました。

「●●に魅せられて」(タイトル)
●●と呼ばれる物質が私たちの体内にあります。これが働かないと病気が引き起こされることがわかっていますが、そお理由はナゾです。そのナゾを解明するため昼夜を問わず研究をしています。
●●の分野にはいることになったきっかけは学部時代の教員が「△△」とその面白さを語ってくれたことです。
博士号取得後は、☆☆で働き、苦しんでいる患者のために薬を開発して社会に貢献することを目指しています。

どうして現在の研究に進んだのか、その内容は何か、さらに未来に何をしようとしているのか、ストーリーが出来上がっていることが分かると思います。実際の文章はもっと具体的で、研究内容にも興味がわくものになっていました。
書き直してもらった自己紹介を見たCoSTEPのスタッフは「見違えるように良くなっている」「まさにbefore&afterですね」と感想を漏らしていました。
もちろんこのフレームですべてが解決するというわけではなく、ひとつの手法に過ぎません。仕事や研究が主役になっている、エピソードにインパクトがない(自分のことを書くのは恥ずかしい)文章もありました。自己紹介を課題にするのは、取材が自分に問いかけるだけで完結することが大きな理由ですが、自分を客観化することが最も難しいということも理解できます。
教育のメソッドやプログラムとしては開発途中ですので、さらに改善していきたいと考えていますが、もし、自己紹介が苦手、書きにくいと思っている人がいたら、このフレームで一度試してみてください。文章だけでなく挨拶にも使えるはずです。
<追記>
「モジュールライティング」の開発と文章教育における実践事例が、CoSTEPのジャーナル「科学技術コミュニケーション第6号」に掲載されています。リンク先からPDFでダウンロードできます。
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