ガ島通信

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原子力発電所見学を前にした受講生の取材メモ

原子力発電を題材にしている北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)選科Bの後期ですが、北海道電力泊発電所を見学を前に、受講生にはテーマや論点、問題意識や想定読者を整理した取材メモを作成してもらいました。
記者として慣れてくると自然と出来る人もいますが、取材メモにまとめることで自分の頭の中で考えている問題意識が明確になり、考えが偏っている部分や足りない部分が分かります。
メモですが、原子力発電の仕組み、電力会社の広報といったテーマを選んだ人もいれば、ヨーロッパの原子力事情といった大きなものになった人もいます。

個人的に面白いと思ったのは

  • 原子力発電所運転員の集中力(ミスが許されない労働環境の発電所で集中力を維持する仕組みがあるのか、同じような条件が求められる交通機関などとどう違うのか)
  • レベル0のトラブルとは何か(トラブルの評価尺度であるレベル0という分かりにくい基準について、ちなみにレベル0+とレベル0−に分かれている)。
  • 原子炉容器を製造する日本企業の取り組み

レベル0というのは、確かに言われてみると「0なんだから問題ないのでは?」と素朴に思ってしまいますし、0といいながらもトラブル評価になっているとしたらどの程度のレベルなのかも気になります。
原子力発電所のトラブルは、とかくマスメディアが過敏に反応しがちで、どれもが大トラブルのように感じられ、何がどれくらいまで問題なのか分かりにくいように思えます。トラブルの評価尺度について分かりやすく説明することは、科学技術コミュニケーターにとって大事な役割でしょう。
そのトラブルが起きた際に言われるのは「ミスは絶対に許されない」ということですが、人はミスをするもので根性や気合だけではトラブルはなくなりません。そこをどう克服しようとしているのかに迫るのは興味深いテーマです(もし、ないとしたら問題でしょうし)。
また、日本企業の原子力ビジネスは、ウェスティングハウスを買収した東芝、三菱重工、日立などの動きが経済誌などで取り上げられています。環境問題や電力需要で原子力発電が見直されているという報道もあり、ビジネスを見ることで原子力発電を取り巻く環境の変化を浮かび上がらせることも出来そうです。このテーマであれば、発電所見学は直接の取材にはならないでしょうが、現地を見ておくことで得ることもあるでしょう。
逆に発電所そのものをテーマにして現地に行っても、立ち入りの制限や広報施設の職員では答えられないこともあるでしょうから追加取材が必要になることもあります。
時間(場合によってはお金や人)と取材スキルとどう折り合いをつけながらクオリティの高い記事を書くかということを学ぶことも重要です。書くプロセスは、仮説、取材や調査、再構築の繰り返しです。取材に行くと自分の頭の中で考えていたことと、まるで違っているということもあります。書いた後に取材不足に気づくこともあります。話を聞いたら立ち位置が揺れ動いてしまい、書けなくなってしまうかもしれません。
表現に「正解」はありません。いろいろな立場や意見がある中で、自身の立ち位置を決めて、その時点で書けることを書くという経験をしてもらいたいと思います。
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