ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

マスメディアの凋落、ネットの行き詰まり、2008年を振り返る

金融危機や雇用問題など暗い話題で終わった2008年は既存のマスメディアにとっても厳しい年となりました。これまで指摘されてきた、マスメディアの凋落がついに表面化。新聞、テレビだけでなく広告代理店も厳しい決算となりました。それだけでなく、秋葉原事件、毎日新聞「WaiWai」問題、オーマイニュース失敗など、メディアのあり方に関わる本質的な問題も、さまざまな形で表面化しました。
日経IT-PLUSで連載しているコラム「ガ島流ネット社会学」の2008年1回目は、炎上とネットとマスメディアの共振が「私刑化する社会」を拡大させていること、これらが規制への引き金になっていることを書いた

でした。
その後、自民・民主両党からネット規制の声が上がり、フィルタリングなどの議論が起きました。
秋葉原事件や毎日新聞「WaiWai」問題は、いずれもマスメディアだけでなく、誰もが情報発信出来るようになったことを明確に印象付け、それに対する既存のマスメディアの反応も浮かび上がらせました。

「市民メディア」として注目されたオーマイニュースの失敗は、メディアがインフレを起こしている時代に単にメディアを持つだけでは何の意味もないことを明らかにしています。市民メディアに関わる議論では、従来からマスメディアとは異なるメディア(オルタナティブメディア)を持つことに重きを置く議論もありますが、単にオルタナティブメディアを持つだけでなく、何のための、誰のためのメディアなのかを明確にしていかなければ、ただあるだけのメディアになってしまうでしょう。

苦しくなったマスメディアが、ネットからインスタントに記事をつくることも目立ち始めました。毎日新聞がウィキペディアの表示時刻を勘違いして誤報を引き起こしましたが、ほかの新聞でもミドルメディアやブログで話題になったことを取り上げることが増えています。以前は「ネットはマスメディアのコンテンツのコピーばかり」と批判する声もありましたが、いまやマスメディアの記者がネットからコピーする時代になりつつあります。

マスメディアのコンテンツ劣化にからみ、ビジネスモデルだけでなく、近代啓蒙主義的なフレームが問題だということも何度も書きました。これは、特に新聞にとって、メディアの立ち位置としても、ジャーナリズムの根幹の問題でもあるので、再構築することは困難を伴うでしょうが、啓蒙主義的なフレームを続けていれば人々からどんどん離れていってしまいます。フレームにとらわれず、出来事を見つめて、その意味を問うことが出来るかが問われています。

一方、個人の活動を振り返ると色々なところでお話をさせてもらう機会が増えました。
マスメディアやジャーナリズムに関するものでは、ニュース畑のオフ会で荻上チキさんと話したのを皮切りに、「サイバー犯罪に関する白浜シンポジウム」、マスコミ倫理懇談会全国協議会、新聞協会やメディア系労働組合の会合、専修大学、東洋大学にも行きました。リアルな会合は、顔を見ながら話すことが出来て反応も分かり、懇親会などがある場合は感想や突っ込んだ話を聞くことが出来るのでありがたいです。
仲間と運営している大手町ビジネスイノベーションインスティテュート(OBII)では、奈良先端大に加え、東京大、京都大でワークショップを行いました。
出かけた各地をのんびり楽しむことは、ほとんど出来ませんでしたが、飛行機の搭乗回数が多くなり羽田空港には詳しくなりました。

仕事ではブログ通信簿が1カ月で100万通の利用があるなど成果も出ましたが、ネット全体に目を向けると閉塞感があるように思います。Googleの帝国化、サービスの出尽くし感、規制の表面化… OBIIの忘年会では「新しい面白い人がいないのでは…」、京都山科でのブロガー忘年会では「今年のネット界は、結局何も新しいものが出なかった」という話になりました。閉塞感は固くなった自分の頭が原因でもあるでしょうから、09年は視野を広げる展開を考えています。

最後になりましたが、最大のチャレンジは、北海道大学科学技術コミュニケーター養成ユニット(CoSTEP)で講義を持ったことです。誰もが情報発信できる時代に、どのようなスキルや考え方をしていくのか、メディアとどう付き合って、使いこなして行くのか、OJT中心のライティング教育にフレームワーク(モジュールライティング:参考「劣化するマスメディアとジャーナリスト教育の可能性」)を持ち込むなど新たな手法にもチャレンジ、受講生の記事をgooニュースで配信することも出来ました。従来の受信だけでなく発信も含めた新しいメディアリテラシーのあり方を実践しながら研究できたことは何よりの収穫でした。

来年は本質を見つめ直して次に備える年になりそうです。日経IT-PLUSのコラムを、高知新聞から朝日新聞に引き抜かれた依光さんのことを書いて08年を終わりにしたのは、社会を切り取り、人と人をつなげるという本質、誰のために、何のために書くのかを、日々見直して、新たな表現にチャレンジする気持ちを忘れないようにという気持ちもこめてです。

今年もさまざまな出会いがあり、多くの皆さんに支えられ、いろいろなことにチャレンジすることが出来ました。本当にありがとうございました。反省点も多いけど、それは次に生かしていきたいと思います。来年もよろしくお願いいたします。