ガ島通信

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「日本人はそもそも他人を信用しない」山岸俊男さんの講演を聞いた

著名な社会心理学者で、糸井重里氏が「ほぼ日の母」と呼ぶ「信頼の構造-こころと社会の進化ゲーム」の著者である北海道大学文学研究科山岸俊男教授の特別講演「よい評判はなぜ大切か」が、発表のため参加していた日本広報学会であり、お話を聞くことができました。「昨年の言葉は偽だったが、何をいまさらだ」「アメリカ人や中国人と比べても、日本人はそもそも他人を信用しない」と刺激的なキーワードが満載でした。
見えにくいですが、社会的ジレンマの日米比較実験の結果の図。緑が高信頼者、オレンジが低信頼者で、日本人はアメリカ人に比べて値が低い。

日本は相互監視の社会システムがあるが、匿名になると他人が信じられなくなることが20年前の実験で得られているそう。「実験は、日本は信頼社会という常識と矛盾しているように思うがそうではなく、信頼と安心の違いを理解する必要がある」と言い、安心社会と信頼社会の違いをマグリブ商人連合とジェノバを例に説明します。

マグリブは11世紀の地中海貿易の派遣を握っていた。貿易は情報の非対称性が大きく、エージェント問題を解決しない限り、まともな商売ができない。そこでマグリブがとった手段は自分たちの仲間しか商売ができないというもの。裏切った仲間は全体に手紙を出す。村八分にする。
システムをつくれば他人を信頼するかどうか考えず安心できる。これはシステムを信頼する仕組み。だが、マグリブはジェノバとの競争に負けて、地中海貿易の覇権を失うことになる。ジェノバは司法制度を確立して取り締まることにした。これにより、相手を信頼して多くの人がビジネスに参加できるようになった。

という内容で、インターネットは集団を閉ざしておくことが出来ないので、信頼社会の考えでポジティブな評判によって人々を呼び込む。呼び込む相手は無限にいるし効果がある、というものでした。
日本の「安心」はなぜ、消えたのか 社会心理学から見た現代日本の問題点
このマグリブとジェノバの話は「日本の「安心」はなぜ、消えたのか―社会心理学から見た現代日本の問題点」にも書かれています。この本の帯にある言葉を抜粋すると…
・日本人とは「人を見たら泥棒と思え」と考える人々だった
・「心の教育」をやればやるほど、利己主義者の天国ができる
・なぜ日本の若者たちは空気を読みたがるのか
・どうして日本の企業は消費者に嘘をついてしまうのか
・武士道精神こそが信頼関係を破壊する
と、これまた刺激的です(タイトルは難しそうですが、読みやすい本です)。
「信頼社会、安心社会のどちらかだけが正しいというのではない」と書いていることに注意しておきたいところですが、今の日本は信頼社会と安心社会の対立構造がいろいろなところに噴出している気がします。
人間の信頼性を高く評価しつつ、人はみなそれぞれと個人主義的な人間観を共有している、のが信頼社会の人々の特徴。
私自身は信頼社会的な考えに近いので、山岸さんがおっしゃられていた「傷つくことを恐れる人間は他人を信頼しない。しかし、人を信頼しなければ信頼が報われたときに得られる利益が得られない」は実感として理解できるところがありました。