ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

「ネット集合知時代のリレーション」情報の非対称戦にどう対応するか

日本広報学会の自由研究報告書「ネット上の集合知情報源の有用性-大学生の就職活動時の情報探索と企業広報のあり方-」が発行されました。就職活動の際に、大学生がどのような情報探索をインターネットを使って行っているかを調査したものです。研究報告としては「ブロガーリレーションズの現状と課題-企業とブログを持った市民のより良いコミュニケーションに向けて-」に次いで二つ目。どちらも日本広報学会で入手することが可能です。

研究は消費者行動が専門の豊橋創造大学・川北眞紀子准教授がメインで担当されましたが、私も大学生のヒアリングと分析に参加させてもらいました。
ケースは5人と少な目ですが、大学生がどのように就活しているのか大変興味深い内容になっていると思います。長い時間ヒアリングに付き合っていただいた大学生の皆さんには改めてお礼申し上げます。
研究で気付いたことを「ネット集合知時代のリレーション」(第四章)としてまとめました。
就職活動時の大学生は「ウィキペディア」の記述を「確からしい情報」として気軽に利用している実態があり、仮に間違っていても「確からしい情報」と受け取られてしまうという企業にとっての「ウィキペディアリスク」があること。CGMの登場以前は、圧倒的に企業側にあった就職活動時の情報イニシアチブが、情報リテラシーの高い大学生になるとその立場が逆転する「情報の非対称のパラダイムシフト」が起きていることなどです。
情報リテラシーが高い大学生は、セミナーの予約の際に大学ランクによって空席状況が違うこと、自身の受けている企業がブラック指数が高い企業かどうか、ブログやSNSを探索して内定先の社員を見つけて日常生活から会社生活を想像する、などさまざまな情報をネット上から拾い上げて分析、企業側が隠したい情報を多く知った上で就職活動に望んでいます。もちろん、学生同士での情報も交換しており、企業側が不誠実であれば、すぐにネットを介して企業の評判が低下してしまいます。
誰もがメディアを持っていることを想定して企業活動を行う必要に迫られていることが、就職活動でも明らかになっています。

この報告書を書いた後に毎日新聞の「Wai Wai」問題が起き、改めて情報の非対称戦の時代が来ていることを実感しました。非対称戦とはアメリカ同時多発テロ事件で注目された概念ですが、特徴として戦力に大きな違いがあるにもかかわらず守るのが非常に困難であること、少ない戦力しかない攻撃側は自律・分散のネットワーク型でアメーバーのようが実態がつかみづらいこと、などが挙げられます。
新聞社は多くの情報を有し、メディアパワーも持っていることから一般企業に比べて、強い戦力(正規軍)と言えるでしょう。ネット以前であれば情報の非対称があれば優位に立つことができましたが、いまやどのステークホルダーに対して、誰がどのような「攻撃」が行うか予想が出来ず、攻められる側は闇の中にいるような状況になります。毎日新聞の場合は、毎日JPにバナー出稿していた企業、つまりヤフーのアドネットワークに出稿していた企業に電凸が行われました。
このパラダイムシフトが理解できていなければ、毎日新聞はますます泥沼にはまっていくでしょう。