ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

「嗤うな、笑え」変化の時代だからこそ面白く生きたい

ワーキングプア―日本を蝕む病NHKで放送された「ワーキングプア3」を見ました。NHKスペシャル「ワーキングプアIII 解決への道」の感想に書かれているように力作でした。これまでの放送は「ワーキングプア―日本を蝕む病」(アマゾンのレビューが賛否両論なのも興味深い)にもまとめられていますが、3になりこれまで少ししか触れられていなかったグローバル化の影響が語られています。
既に何度もこのブログで紹介していますが希望格差社会フラット化する世界(増補改訂版も近く出るようです)を読んでいれば特に驚く内容ではなかったと思われます。この二冊を読んでいて、もう少し詳しく知りたいという方は「危険社会―新しい近代への道」や「リキッド・モダニティ―液状化する社会」もオススメです。
ワーキングプアの原因の一つはグローバリゼーションであり、国内だけを見ていても本質は見えません。別のNスペでも特集されていましたが、日本の会社の総務や経理といった作業もアウトソーシングされており、中国にホワイトカラーの業務を移した日本企業は既に2500社に上るとのことです(中国大使館のHPに紹介されている中国が最大のアウトソーシング拠点にという新華社の記事によると、2万人いるソフトウエア・アウトソーシング従事者の70%は日本語に通じており、さらに学生の多くも日本語教育を受けているという。中国で数万人が日本に関連する業務に就いているということはそれだけの日本人が仕事を奪われている)。

着ている服は、食事は、いま立ち寄ったコンビニの店員は…と考えればグローバリゼーションというのは案外身近なものです。そして、労働は賃金が安いところを求めて移転していきます。私たちは望むと望まざるとにかかわらず、世界的な競争の中に巻き込まれています。ライバルは隣の人ではなく中国の人かも知れないのです。インドや中国の人にとってはチャンスですが、厳しい競争社会を世界中に広げているということもいえます。
会社は頭から腐る―あなたの会社のよりよい未来のために「再生の修羅場からの提言」
このような状況をイノベーションの努力を怠りコスト削減で乗り切ろうとすれば、必然的に「パイ」が小さくなっていきます。ワーキングプアではその限られたパイをどうやって分配したかは描かれていません。
産業再生機構の元COO冨山和彦氏は会社は頭から腐るでその理由を述べています。失われた十五年は大きな転換期にありパラダイムの転換が迫られたにもかかわらず、いつか景気が回復すると問題を先送りする中で新卒採用の削減と非正規雇用を増やし、「カイシャという共同体を守るためにロスト・ジェネレーションをつくった」と。なぜこれがワーキングプアで語られないのかは分かりませんが…

では、パイにありつけなかった人=ワーキングプアロストジェネレーションはどうすればいいのか。赤木智弘氏のように「希望は戦争」(若者を見殺しにする国―私を戦争に向かわせるものは何か)と共同体の中でパイにありついた人たちを攻撃するのか(そんなことをしても団塊やバブル世代はパイを渡さないのだが)。それもどこかが違うように思います。この本は読みましたが「何とかしてくれ」と人のせいにしてばかりのように見えました。これは、実はワーキングプアを生み出した会社を腐らせた経営者たちの言い分に良く似ています。
若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か
小飼弾さんの「嗤うな、笑え。」も議論を呼んでいるようですが、このエントリーの趣旨は無理やり笑えとうのではなく、希望を失わずに前向きに生きればいいという意味ではないのでしょうか。山田昌弘教授は希望格差社会で、この希望が失われているからこそ格差が広がると重要な指摘をしていますが、そのためには制度を再設計する必要があります。これは嗤っててもできない。いや出来ないと頭で分かっているからこそ嗤うのかもしれません(ワーキングプア3にも労働者を支援している団体が少し紹介されていましたがその人たちはワーキングプアや社会を嗤っているのだろうか)。

仮にパイを奪い取ったとしてそれはいつまで食べられるのでしょう。大企業であってもリストラがあることもあり以前のように定年退職まで線路が続いている保証はありません。私には小さくなるパイを奪い合うような議論はつまらないことのように思います。確かに競争は厳しく、将来も不安定な時代です。けれど、面白く生きたほうがプラスのことが多いように思います。
このブログでも紹介することが多い大手町ビジネスイノベーションインスティテュート(OBII)は、「居酒屋で文句ばっかり言うのはつまらないから何かやってみようよ」ということでスタートしました。仕事の合間に1年間やってきて、多くの人と出会い、ウェブサービスも生まれ、テレビでも紹介されました。28日にあるイベントには豪華なゲストの皆さんが遊びに来てくれますが、嗤っていればOBIIもイベントもなかったかもしれません。
ワーキングプア3の最後は、ホームレスの男性が人間の誇りを取り戻しつつある映像でした。人を信じたからこそ社会の信頼の輪に加わるチャンスが生まれる。変化の時代だからこそ、不安があるからこそ、人を信じて面白く生きよう。そんな風に思う今日このごろです。