ガ島通信

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シンポジウム「ネットワークの匿名性とプライバシー保護」で話をしました

情報セキュリティ大学院大学主催のシンポジウム「ネットワークの匿名性とプライバシー保護」(協賛、電子情報通信学会、情報処理学会、日本セキュリティ・マネジメント学会)で、話をする機会を頂きました。

基調講演
「セキュリティ対プライバシー:敵か味方か」
 苗村 憲司 (駒澤大学教授、情報セキュリティ大学院大学セキュアシステム研究所教授)
一般講演
「日本のネット〜なぜ実名が少ないのか」
 藤代 裕之 (NTTレゾナント、「ガ島通信」ブロガー)
「ネットワーク利用者の匿名性と悪用者の匿名性について」
 壇 俊光 (北尻総合法律事務所弁護士)
「情報セキュリティに関する脅威の動向と関連する施策の現状」
 早貸 淳子 (JPCERTコーディネーションセンター常務理事)
「情報漏洩に関する技術的対策とその運用、そして問題点」
 森井 昌克 (神戸大学教授)
「通信の秘密と匿名性 コインの表裏は切り離せるか?」
 岡村 久道 (英知法律事務所弁護士)
パネルディスカッション

講演者の方々は、情報ネットワーク法の第一人者として知られる岡村弁護士をはじめ、法律、技術の専門家ばかりでしたので、ブロガーとしての現場感覚、またメディア的な側面から見た、実名・匿名とプライバシーについて私なりの考えを述べました。講演の主な内容は以下の通りです。

  • 日本のブログが9割匿名(ネットリサーチなどによる)なのは実名にするメリットがないから。実名は「損」
  • 実名・匿名論争の問題点(特にマスメディアにおいて)は、実名・ハンドルネーム(仮名、顕名)・匿名の混同があることで議論がかみ合わない
  • 「悪いのはインターネット」という話になりがちだが、果たしてそうなのか。ネットはリアルな社会を映す鏡
  • 「最後まで空気を読めなかった男」と批判された人がいたが… KY=空気読めの主体は「誰」か。空気というのはある種の匿名なのではないか
  • KYはネットだけではない。個が組織に埋没している
  • インターネットは自由過ぎた。サービス提供社も甘えがあるのではないか
  • 匿名言論によって進む「私刑」。公共と私の役割が混在
  • 結局は表現と責任の問題。誰が責任を背負うのか

といったものです。
実名・匿名の問題は複雑で、パネルディスカッションでも様々な角度から意見がありました。概要だけでは十分に伝わらない可能性はありますが、「匿名が悪い」という論調のように、一つの悪者を作ってそこを埋めれば解決するという問題ではないでしょう。また、講演者に法律の専門家が多かったこともあり、法制度への取り組みへの質問もありましたが、安易な法制化は後で自分の首を絞めかねません。インターネットの自由さ、そして表現の自由をどう確保していくのか、技術、法制度だけでなく、社会の構造やユーザー心理も重要になってくるでしょう。
私は、表現の責任は基本的に発信者にあると考えていますので、言ったことの責任を持たなければいけないような仕組み、つまり、良い事を発言したら得をして、誹謗中傷を行えばレピュテーションが下がるといったアーキテクチャが実現できるのならある程度、プライバシー侵害は押えられるのではないかと思います(実名だろうが、リアルだろうがそれでもやる人もいるので、それは別の話)。シンポ終了後にも「誹謗中傷をネット上に書き込んだらバレる」という認識をユーザーに広めて定着させるだけでもずいぶん違うのではないかという話もしました。

シンポでは、ウィニー裁判の弁護団事務局長の壇弁護士や、以前は徳島大学に勤められていた関係で新聞紙面上でコメントや連載をよく拝見していた森井先生にお会いできました。それぞれの講演やパネルディスカッションでの話は刺激になりました。シンポに来場して頂いた皆様、関係者の方々、ありがとうございました。

参考:匿名・実名については、CNETJapanでジャーナリストの佐々木俊尚さん、小倉秀夫弁護士、産業技術総合研究所高木浩光さん、ゼロスタートコミュニケーションズの伊地知晋一さんが座談会形式で議論した特集がアップされています。