ガ島通信

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「ブルー・オーシャン戦略」W・チャン・キム+レネ・モボルニュ

ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press) 「ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する (Harvard business school press)」は、血みどろの戦いが繰り広げられている既存市場=レッド・オーシャン=での競争から抜けだし、競争を無意味なものにし、新たな需要を掘り起こすブルーオーシャンを創造しよう、と呼びかけるビジネス書です。2005年6月に第1刷が発行され、私が購入したのは06年3月の12刷ですので、既に多くの人が手にしているのでしょう。オフィスでも青い特徴的な表紙を見ることがあります。

筆者のグループが108社の新規事業の立ち上げについて調査したところ、既存の市場空間での小さな改善は売上高の61%、利益の39%で、ブルー・オーシャンは売上高では38%だったものの利益は61%をたたき出していたとのこと。こう書かれると新規事業の際にはブルー・オーシャン戦略で、と思わず考えてしまう経営者もいることでしょう。
この戦略の土台は、価値と革新が結びついたバリュー・イノベーションが重要(技術イノベーターや市場パイオニアは自分たちで卵を産み落としながら、他社にそれを孵化されるという運命をたどりかねないとの指摘。確かにこれは良くある気がする…)で、実現のためには、業界で常識とされている競争のための要素をそぎ落とし、未知の要素を取り入れることが必要になります。具体的なケースも各章で紹介されていて、分析のためのツールとフレームワーク、戦略策定のアドバイスも用意されているので、活用してみるといいでしょう。

全体を通して読んで「差別化戦略とかとあまり変わらないような気もするが…」との考えが頭をよぎりましたが、「(業界で常識とされている競争要素を)取り除く、減らす」ということを明確に示していることが新しいのでしょうか…。現場レベルで、競合する同業他社と比較するマトリックスなどを作ってみることはよくあると思いますが、「足りない」という議論はあっても、あえて「取り除く」ということいにはなかなかなりません。日本のように、会議とインフォーマルなネゴで物事を決める責任があいまいな社会では、新たなチャレンジへのインセンティブはそもそも働きにくい上、何かをプラスするだけでなく、取り除くとなれば、戦略実行はかなり難しい気がします。

ブルー・オーシャンは「戦略は模倣が著しく難しく、10年から15年もの間大きな挑戦を受けずに持ちこたえる」とのことです。しかし、結局のところブルー・オーシャンも、いずれはレッド・オーシャン化してしまう。血みどろの競争がなくなることはなく、バリュー・イノベーションに挑み続けなければなりません。著者の主張は、どうせ戦うなら、利益が大きく他社の挑戦を受けにくいブルーでということのようです。

組織内の意識を変革し、動かしていくための手法や公正なプロセスの要件が満たされなかったため、それまで労使関係が極めて良好だった工場が大混乱に陥り、変革に背を向けてしまった事例などが紹介されている第七章、第八章はブルー、レッドに関係なく、参考になりそうな気がします。

読書メモ

  • 競合他社に打ち勝つただ一つの方法は相手を負かそうという試みをやめること
  • レッド・オーシャンでは差別化と低コストは二者択一だが、ブルー・オーシャンでは差別化と低コストをともに実現できる
  • 戦略キャンバス(分析&フレームワークツール)=競合要因をチャート化
  • 新しい価値曲線を描くための4つのアクション。減らす、取り除く、付け加える、増やす
  • 優れた戦略に共通するのは、メリハリ、高い独自性、訴求力のあるキャッチフレーズ
  • 利益につながらない過剰奉仕、戦略の矛盾、内向きの企業も戦略キャンバスから分析可能
  • 6つのパス。代替産業に学ぶ、業界内のほかの戦略グループから学ぶ、買い手グループに目を向ける、補完材や補完サービスを見渡す、機能志向と感性思考を切り替える、将来を見通す
  • 細かい数字は忘れて森を見る
  • ビジュアル・ストラテジーの見本市を開く
  • 顧客以外の層に視線を向け、新たな需要を掘り起こす
  • 意識のハードルを克服するのは数字ではなく肌で触れさせる
  • 戦略を実行するには。組織に強い影響力がある中心人物にだけ徹底して働きかける、経営層の中からアドバイザーを得る、足をすくおうとしている人と後押しをしてくれそうな人に目星をつけてその両方に利益をもたらすよう努力する(それ以外については考えなくてよい)
  • 経営陣と変わらぬほど最前線の従業員が物事のプロセスを気にかけている
  • 知性が評価されていると感じると進んで知性を差し出そうとするが、感性をないがしろにされると人は怒りを覚え、行動への熱意を失う