ガ島通信

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「ウェブ進化論」梅田望夫

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる (ちくま新書)梅田望夫さんの「ウェブ進化論 〜本当の大変化はこれから始まる〜」が売れています。

3月1日には四刷が発行されたそう。書店ランキングなどで上位になり、今朝見たテレビでも紹介されていました。ビジネス書として置かれているので、インターネットによる変化を感じ取りたい(エスタブリッシュメントな)経営陣や管理職が手に取るケースが多いでしょう。新しいもの好きの経営陣が「よい本でしたので読みましょう」などと社内メールで紹介したり、部会で「読んでる人はいるかい?」と聞いたりしているかもしれません(そのとき、あまりに手を上げる人の少なさに驚いたりしたかもしれませんが、見なかったことにしましょう)。
この本には、グーグル、ブログ、ネットのあちら側とこちら側、ロングテールウェブ2.0などキーワードがちりばめられていて、「なんかネットはすごいことになっている」と感じさせられます。ネットに遅れていると考えたり、「ネットは敵かも?」と思っている企業や経営陣ほど、「やばい」と感じることでしょう。経営陣の「お考え」に目ざとく目をつけた経営戦略室や事業推進局がこの資料を拾ってきて、「海山商事社員2.0化計画」を策定しているかもしれませんね。もしくは、目標管理シートあたりに「2.0化を推進する」と書いている管理職がいるかも…

そんな、迷惑な変化が社内で起きたりするかもしれません。と、冗談はさておき

個人的にこの本を読んだときに、エスタブリッシュメントへの言及(私から見れば、梅田さんだってエスタブリッシュメントじゃないか、とも思ったりするがそれは本質ではない)に注目しました。

梅田さんは

日本のエスタブリッシュメント層の人々は、頭では理解できていても、経験に裏打ちされた想像力が全く働かないのだ。

これから日本は、大組織中心の高度成長型モデルではない新しい社会構造に変化していき、私たち一人一人は、かこちは全く違う「個と組織との関係」を模索しなければならない。そういうことを感知するセンスのいい若い人たちに、「組織を一度も辞めたことのない」エスタブリッシュメント層の言葉は、むなしく響くばかりなのではないだろうか。そんなふうに強く思った。

と書いています。時代の変化も理解しているし、何をすべきかも理解している、にもかかわらず動かない(いや、動けない)賢いエスタブリッシュメント層。そして、若さで軽々とハードルを乗り越えていく人たちを見て

もっとモノをよく知っていて、もっと客観的で、それゆえ「もう少し力をつけてからでも遅くない…」なんて考えて、冒険しなかったらと思うと、ぞっとする。
モノが見えてなくて良かった。今、心からそう思うのだ。

新しいこと、未経験なことについて、ネガティブに判断するようになってはいないだろうか。これを「老い」と言うのではないか。

と。

ここで、梅田さんがエスタブリッシュメント打倒やネットによる変化を叫んでいると捉えると、この本を見誤るのかもしれません。最近のブログエントリーでも梅田さんはこう書いています。

日本のエスタブリッシュメント社会の人材の豊穣さ、層の厚み、個人として魅力を発する人の多さ、というのは凄いものがある。

でも若い人たちは、このことをわかっていない。エスタブリッシュメント社会の戦士たちの日常は忙しすぎ「ネットに住むようにして生きる」ことなんてできない。だからネットのことがわからない。でも過激な若い人たちは、その一点をもって彼ら彼女らを認めようとしない。そういうギャップを百も二百も承知しているからこそ、僕はこの本を書いたのである。

日本における良質なものと良質なものが互いに理解しあえないのは不幸なことだ。しかしその二つの別世界は、きちんと言葉を尽くすことで、理解しあえるのではないかと僕は信じているのだ。

向こう見ずで、時代を軽々と乗り越える若い人たちと賢いエスタブリッシュメントが融合すれば、もっと日本やネットはよくなるはずだ…。楽観主義で本を書いたと言う梅田さんでも、ここはかなり願望が入っているように思えてなりません。多くの会社でコンサルティングとして活動してきた梅田さんのジレンマが伝わってくるようでした。

現実的には、先ほどの冗談もありえない企業が多いのかもしれません。企業、組織は急には変わらないし、何よりも人は変わらない。そして、人は老いて、保守的になっていく。

この本から何を読み解くかはそれぞれなのでしょうが、賢いことで時代の変化に結果として対応できないなら、バカでいいのではないか。そう思いました。こういうことを書いている時点で時代を軽々と乗り越えることはできそうもないのですが、「そんなの分かってたさ」などと、後から振り返って評論するのではなく、時代が動くなら、その変化を感じ取りたい。そんな感じです。