ガ島通信

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NHKが「クライマーズハイ」をドラマ化

クライマーズ・ハイ [DVD]
元上毛新聞記者の作家・横山秀夫氏の傑作小説「クライマーズハイ」がNHKでドラマ化されます

クライマーズハイは、日航ジャンボ墜落事故を題材にした地方紙小説です。横山氏自身が御巣鷹に登って取材した(当時警察サブキャップだったそう)経験があり、自伝的な小説とも言われています。多くの命が失われているにも関わらず、新聞社内ではさまざまな力と人間関係がうごめきます。社会部と政治部の縄張り争い、社長派と専務派に分かれた権力闘争、地元政治家への配慮、そして、「現場を踏みたい」という記者の業(ごう)…

伝えるとは何か、記者とは何かという本質を問いかけます。
主役である、事故全権デスクを命じられる元警察担当(サツ)記者悠木は、佐藤浩市が演じます。前編の放送は10日午後7時30分から。ドラマを見る前に、原作を読んでおくことをお勧めします。

追記(12月11日) NHKドラマ・クライマーズハイの前編を見ました。新聞社の雰囲気をかなり正確に再現していると思います(例えば共同のピーコ、出社した悠木がスリッパに履き替える、やたらと吸いまくるタバコ、やたらと怒鳴るなど)。チャイム(大きい事件があるときは、キンコンカンコンという学校のチャイムの音が鳴る)が鳴り、テレビのボリュームを上げる。皆立って画面を見つめ、次の瞬間ある者は走り出し、ある者は電話をかける。編集フロアに広がる緊張と興奮。誰もが翌日の新聞に「活字」が踊ることを頭に描く。ブンヤ冥利につきる瞬間もうまく見せていました。 

新聞社生活を警察・司法担当のいわゆる事件記者からスタートさせた私にとって、クライマーズハイは特に印象深い小説です。悠木は、心に傷を持つ男として描かれているわけですが、そのひとつの要因がサツキャップ時代に部下を「殺してしまった」ことにあります(もうひとつは家庭環境)。被害者の顔写真(面取り、ガン首とりなどといわれる)を取りに行った新人記者の望月に『なぜ死んだ人の顔写真を新聞に載せなくちゃいけないんですか?』と聞かれ、『馬鹿野郎、商売だからに決まってるだろう。写真が載っているほうがいい商品だから載せるんだよ』と怒鳴りつけ、望月が1時間後に自殺とも事故ともとれる交通事故で亡くなってしまうのです。

最近でこそ表立って言わなくなりましたが、私の入ったころはどんな小さな事故でも顔写真は必須でした。「星取表」「ガン首取得率●%」などとゲーム感覚のような言葉で表現するデスクや先輩記者がいて、私は「お前は取得率が低い」などと怒られたものでした。疑問を持ちながらも、会社の支持に従っている自分が情けなくなり、ストレスを溜め込んで出社できなくなった時期もありました。

フレッシュな気持ちで入った人たちも、日々の取材活動に終われたり、社内の人間関係に巻き込まれたりして、いつしか「まともな」気持ちを失い、新聞社の論理で動くようになっていきます(これはどんな会社でも同じだと思いますが)。最近、体調不良だけでなく、心の病になってしまったり、入社試験の受験者数が激減しているとの情報も聞きます。新聞社の制度疲労は、記者の「気持ち」などという精神論ではカバーできなくなってきています。組織、制度として対策が必要なのです。
クライマーズ・ハイ (文春文庫)
クライマーズハイからだんだんずれてきてしまいましたが、多くの読者がいて、影響力があるからこそ、記者は誰のために書くのか。それを問い続けて行かなければならない。そう思っています。

・参考
「クライマーズハイ」レビュー(2004年9月16日)原作の本もとてもすばらしい作品です。ドラマ化でカットされている部分もあるので、ドラマを見て興味を持った方は、ぜひ本も読んでみて下さい。
「声高に叫ぶのは」(2004年11月6日、顔写真や遺族取材について少し触れています)