ガ島通信

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読売新聞見出し訴訟=読売が「著作権」から「ネット情報ただ乗り許さん」へ論点をすり替えか?

読売新聞東京本社が「見出しの部分を無断使用して利益を得ているのは違法」だとして、インターネットサービス会社「デジタルアライアンス」に対して、損害賠償と見出しの使用差し止めを求めていた訴訟の控訴審判決が、10月6日知財高裁でありました。

7日の読売新聞は1面で大々的に勝利宣言。当事者で「見出し無断配信 違法」「本誌逆転勝訴、初の司法判断」と仰天の1面5段見出し。解説は「ネット情報の商業利用 ただ乗りに歯止め」。まるで全面的な勝訴のように思えるのですが…
判決要旨をよく読むと見出しの著作権は認められてません。それに、読売が求めていた2480(最初は6825)万円は、たった24万円になってしまっています。現状では1ヶ月1万円支払えば、見出しの商用利用可能って風にも読めます。これまで、読売は著作権侵害をまず第一に主張してきたわけですが、1審に続いて今回も認められませんでした。読売紙面の見出しには著作権の著の字もない… 1面で扱うような「画期的判決」とは思えませんし、いくら当事者であるからといって、他社との扱いや見出しも違いすぎます。

記事や見出しの展開を見て、著作権は認められそうもないので、「情報ただ乗り」に論点を摩り替えて、「ネット上の情報で設けているやつのただ乗りは許さん! だからビシビシやってくぞー」という風に拡大解釈していく決意表明なのではないか、と個人的には解釈しました。社会面でも、コメントの一部にイメージの悪そうな?ライブドアという具体的な名前を出して「順法精神があまりないネット社会は悪」と印象付けようとしているように見えます。ネット業界の対応は分かれたと書いて、新聞界の意向を尊重する大手ポータル(なぜかこちらは匿名、笑)をうまくアリバイとして使っていますし。

確かに、苦労して取材した原稿を整理部員が読んで、考えて作った見出しがただで使われているのは許せないという気持ちはわかりますが、判決内容に対してあまりに紙面が恣意的すぎて、権益づくりのキャンペーン報道なのではないか、そんな疑いすら感じました。考えすぎでしょうか。

デジタルアライアンスのサービスは、見出しは無料で再配信してスクロールしている間に広告が入るというものです。ニュース速報系の個人サイトが、アドセンスなどの広告を導入していれば、引用先の新聞社や通信社にお金を求められる可能性もあります(まあ、よほどのアクセスがなければ「容認」するのでしょうが、見せしめはあるかもしれない)。今回のキャンペーンが成功して、「ただ乗り許さない」の印象が定着すれば、ネット上でのさまざまな個人の活動も窮屈になってくるかもしれません。

それに、ブログの世界でも、各ブロガーが書いたエントリーのタイトルをまとめたり、速報しているサイトもあります。それはどうなるのか? 新聞社の取材や編集は大変だから、お金が発生して、個人やブロガー集団の「苦労」は認めないのか? どこまで手間をかければ「苦労」と認めるのか、難しい問題をはらんでいる気がします。

ちなみに、新聞社なども「●●新聞によると」「●●通信は…」などとニュースを引用して配信していることがありますが、それは

新聞も言論・報道機関としての機能を発揮するため、他の新聞、雑誌などを通じ報道・評論活動に必要な情報や判断の資料を入手し、これを引用、紹介し、多様な情報と意見を国民に提供している。
 現行の著作権法では「引用の目的上正当な範囲内」と規定しているだけで、具体的な基準は明確にされていないが、新聞各社が紙面に引用する場合は「報道・評論の目的に沿った範囲内」とするのが一応の基準となっている。一方、新聞の著作物を他が引用する場合にも本条項の精神に合致した目的で、正当な範囲内であればこれを容認するというのが、新聞界の基本的な態度である。(新聞協会HPより)

と「国民に提供する」ために例外らしいです。そして、正当な範囲であれば一般人も新聞の引用を「容認」していただけるそう。つまり認めてやっているからおとなしくしとけと…


参考 -控訴審判決要旨と各社の報道
   -1審判決(知財高裁)
   -デジタルアライアンス社の説明
   -著作権に関する日本新聞協会編集委員会の見解