ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

ライブドアとニッポン放送、そしてソフトバンク系

堀江氏が「好き(支持)」もしくは「嫌い(支持しない)」という観点だけ(もしくは観点に引っ張られすぎている)では今回の騒動は語れないと思っています。

1、ラジオ・テレビへの「愛」

私は堀江氏に直接会ったことがありません。確かに「テレビを殺す」という言葉は刺激的ですが、それだけで「愛がない」とは判断できません。既存メディアなどでは堀江氏はバッシングされていますが、ビデオジャーナリスト神保哲生氏のブログ「今こそホリエモンバッシングに答えよう…」では、堀江氏は『既存メディアに対する問題意識がある』と語られています。色々な情報があるわけです。ただし、神保氏はこうも述べています『ただ、やはりジャーナリズムの役割やその意義に対する堀江氏の理解は、まだ世界的メディア兼IT兼フィナンシャル・コングロマリットを目指す企業体の長としては、発展途上というか、まだまだ物足りない印象は拭えないように思いました』。この部分は私も同意します。ライブドアPJの南極級の寒さを見ても、堀江氏のメディア産業での実行力・ビジョンに疑問が生じるし、それはこのブログで言ってきました。それでも最終的には、直接話を聞いて見なければ堀江氏に、ラジオそしてメディアに愛があるかどうか、そしてビジョンがあるのかは判断できません。私はそういう考えです。付け加えておくなら、当たり前ですが愛と経営手腕は別です。

2、ライブドア時間外取引について

この問題について『他人の家に土足で』、『オーストラリアの軍隊辺りが突然東京湾に侵入して、ミサイルぶっ放して東京を火の海にした挙句、国会議事堂占拠して「私達は日本と友好的な関係を結びたいと思っています』などと表現する人がいまだいることに驚きます。地裁・高裁で時間外取引は「違法ではない」と判断されています。侵入は、家であろうと領海であろうと「違法」です。司法で認められたことについて感情的になっても、議論はなりたちません。「拳銃を突きつけて握手しようと言われてもできない」と言う表現も同じです。この件についてはニッポン放送フジサンケイグループがマヌケなだけです。嫌なら上場しなければよかった、それだけです。

3、堀江氏のやり方

もっとうまく話せばいいのに、それにスーツは着た方がいい、今回のニッポン放送株買収にしても「もう少しうまいやり方あったかもしれない」とか色々思います。あれでは反発を買っても仕方がない。これは堀江氏に責任がある。私自身も面白がりつつ、あまりいい感じは持っていませんが、彼のパーソナリティなのでここで、どうこう言うつもりはありません。

4、ニッポン放送従業員の対応について

好意的な意見がネット上に多いことは、新聞社の人間としてはうらやましく思います。リスナーへ向いて番組作りをしてきたのでしょう。それと、今回の「堀江批判」は別です。社長が変わったり、会社がどこかに飲み込まれたり、会社である以上、起こり得る話です。ニッポン放送は「特別」な会社ではないのです。『堀江、ライブドア体制では仕事は出来ない』と、堀江氏の話を聞く前に、宣言してしまった以上は責任を取るべきです。そして、新しいラジオ局を自分たちで作ればいい。もし残るなら「あの宣言は間違いだった」ときちんと区切りを付けてから、リスナーのために中からいい番組を作るため頑張ってほしい。けじめもつけずに、ずるずる会社に残って、いい番組が出来ないのを堀江&ライブドアの責任にするようなことだけは、しないでもらいたい。ニッポン放送従業員に「リスナーへの愛」があるのかどうかも、これから試されるのです。

なお、新聞社は株を上場していませんが「買われる」こともありえ得るでしょう。決してニッポン放送が対岸の火事ではないと思っています。

5、フジサンケイグループの経営者責任

いびつな資本構造を堀江氏に突っ込まれ、ニッポン放送ライブドア支配下(資本構造において、従業員が動くとか、そういうのは別)になってしまいそうなことに責任はないわけがありません。「時間外取引は違法性が高い」などと感情的な批判しかできずに、結局大量の株を買われてしまいました。フジテレビ本土防衛に焦点が移っていますが、「フジサンケイグループに残ります」と堂々宣言した亀渕ニッポン放送を守れなかったことは確かなのですから。これがうやむやになるのはおかしいと思っています。それに産経新聞は、いくらフジサンケイグループとはいえ、グループ会社の甘さや問題点をきちんと指摘していかねばなりません。それが報道機関の使命であると私は考えています(産経がフジサンケイグループの広報誌と言うなら、別に文句はありません)。ニッポン放送的に言えば、会社(グループ)への愛か報道への愛かが問われているのです。

6、ソフトバンク系

SBIが登場したときのある新聞の見出しは「ライブよりまし」は、なかなかウマイと思いました。ソフトバンク本体とSBIについて、孫氏と北尾氏の関係について私はよく知りませんのが、SBIがソフトバンクグループの一員であるということからくる「奇妙な安心感」があるように思えます。北尾氏が記者会見で述べていた「ネット企業とメディアとのシナジー」とか、堀江氏が言っていたこととあまり変わらない気がしますが、堀江氏のときのようなバッシングが起きないのはなぜか。それは、ライブドアよりソフトバンクグループのほうが「確かさ」があるということでしょう。孫氏がマードックとテレビ朝日を買おうとした際、あおぞら銀行株を売ろうとして経済誌に「ハゲタカ、外資並みのあくどさ」「売れずに資金繰りが悪化」と書かれたり、ヤフーBBのPR舞台が「白い軍団」と悪イメージで宣伝されたり、ソフトバンクグループもつい最近までかなりのキワモノ、怪しさだったわけです。プロ野球を買収したときも、ソフトバンクの担当者が「何をやっているかわからない会社と言うイメージを変えたい」と言っていました。

例えば、今回はライブドアと比較して「まし」と思わせるという、イメージの局地戦を展開し、多くの人が「なんだかまともな企業」と思う(SBIがそういう戦略があるかどうかは不明)。堀江社長がいくら「想定内」と言っても、ライブドアが毎度のごとく踏み台になっているのも事実。このままでは、ライブドアはいつまでたってもキワモノのまま終わるでしょう。それに、ソフトバンクグループとライブドアの企業価値、資金力で比較している人も多いですが、これこそ「金で買えないものはない」といっていた堀江社長が、金で負けたという皮肉。逆に言えば、ソフトバンクが資金力があるから「安心」と言っている人は、評価基準は金なので、実は堀江氏と同じ(もしくは似た)考え方であることも分からなければなりません。

私は破壊者としての堀江氏は一定の評価はしていますが、メディア経営者としての力量は未知数だと考えています。ニッポン放送では、もう一方の大株主であるフジテレビとの攻防もあり、厳しい運営となるでしょうが、チャンスでもあります。きちんとニッポン放送を運営できれば世間の目も変わるでしょう。所詮は結果論でしかありません(*「説明しても意味がない場合がある」でも書きました)。プロ野球、今回の騒動と名前は十分に売れたでしょう。ライブドアも、そろそろ「まともな」会社と思われるようなイメージ戦略も考えたほうがいいかもしれません。その上、少々人手不足のようです。堀江氏のアイデアと実行力だけで動かせる規模ではなくなってきているのかもしれません(語らないといいつつ、語ってしまった… かなり余計なお世話だ…)。

ライブドアパブリックジャーナリズム(堀江氏のメディア運営に私が疑問符があるのは、PJの寒さによる部分が大きい)の小田氏と団藤ブログの間で戦いが始まっているようです。次回は、それについて書きます。