ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

お寒い精神論(ライブドアをめぐる報道)

ここ1週間ほど、テレビのニュース番組でほりえもんを見ない日がないぐらい盛り上がっているライブドアニッポン放送株取得問題。ライブドアvsフジサンケイグループと騒ぎたて、ライブドアの株取引の手法とテレビ局の株式問題や電波法見直し、さらには堀江社長の「資質」から教育問題にいたるまで、政・官・財の人間が相次いで発言するなど過熱気味の様相です。既存メディアは、プロ野球のときもそうでしたが、ライブドアに対して「奇妙な嫌悪感」を持って報道しているように思えます。

例えば株の取引について。最初は「フジ側(ニッポン放送側)に事前通告はなかった」と通告しなかったのをさも悪いように書いてある記事もありましたが、抵抗必至な会社を買収をする際に「今から買いますよ」と言うバカはいないでしょう。通告しないで買えるルールがあるなら、TOBをスタートした時点でフジが株の動きに目を光らせておくべきです。「ニッポン放送フジサンケイグループの中核。フジがTOBしてるんだから皆協力してくれるはず」という都合のよい考えは市場には通じません(それに、もう少し株を集めてからフジはTOBしてもよかったのでは?)。それなら上場しなければいい。上場している以上、常に買収の危険があるはずです。西武鉄道と堤家、コクドの関係の際には新聞各社とも「上場企業の責任」とか「公共的な事業に関わる会社の責任」について散々書き散らしたと記憶しています。奥田日本経団連会長がライブドアフジサンケイグループの双方に苦言を呈して、少しばかり修正されそうな気配ですが、奥田氏が言わなければどうなったか…

フジサンケイグループライブドア&堀江社長への報道には目に余るものがあります。特に18日の産経新聞の社説はひどかった。新聞には「一般事業とは違う責任」とやらがあるらしく、堀江発言は『執筆人に対する冒涜』でもあるらしい。文章は、自分たちの職業と所属する会社を必要以上に「特権的」に扱う、マスゴミ意識が丸出しです(この件については、いい国作ろう!「怒りのブログ」でまさくにさんは書いているけれど、不思議とネット界では批判が少ないように思います。朝日がこういうトーンで書いていればものすごく食いつくのだろうに…)。確かに産経新聞は北朝鮮報道などで独自色を出していますが、メディアの路線や方向性、カラーは長いスパンで見れば時代背景や時の権力者、経営者などに左右されてさまざまな変化しています。それに「正論」的論陣を張る執筆人もサラリーマン。もし、仮に経営陣が路線を変更、否定しても徹底的な闘いを挑むのでしょうか? もちろん何人かは「(正論的論陣を張るべく)責任を取って」フリーになるでしょうが、大部分は新しい路線に粛々と従っていくはずです。メディアは本質的な部分で「勝ち馬乗り」で「大衆迎合」で、執筆人もサラリーマン。時代に伴う変化とその弱さを認めずに、威勢のいいことばかり「主張」することに、無責任さと危うさを感じます。

さらにフジテレビの労組もライブドアに「NO」らしい。『心を無視して強引に経営参入しようとしている者には断固NO』『筆頭株主になったから業務提携しろ…略…礼儀を欠いている』って。心や礼儀だけで資本主義社会が闘えるんでしょうかね? ちょっとネタかと思って笑ってしまいました。あのフジテレビでも労組は『断固NOを出したい』とかいう労組的言い回しを使うのだな〜と思うとなんだか… ニッポン放送労組(あるのか?ググッたけど不明でした…)も「NO」なんでしょうか? 

確かに堀江社長の人を小バカにしたような感じは、自分も話してみると不快になるかもしれないですが(笑)、それとこれとは別。堀江社長の人格攻撃をするのはジャーナリズム(仮に既存メディアがジャーナリズムを名乗るのであれば)の仕事ではありません。時間外取引の問題点や過去の経緯(これまでの銀行の取引は良くて、なぜライブドアがダメなのかとか…)、テレビやマスコミ各社の株の状況と「支配」について(テレビやラジオなど所有するメディアの株をきちんと報告していなかったとして問題になったのはつい最近でしたよね?)、堀江社長の言う既存メディアとネットの融合の将来性、リーマンブラザーズの関与の問題(今回はハゲタカと呼ばれた外資よりもほりえもんの嫌いが上回っているようで、ハゲタカ批判がおなりを潜めているのが、また笑える)などについて、取材・分析してほしいものです。企業のM&Aや投資、経済活動は冷徹で、基本的には「金」を中心に動きますが、思わぬ展開で「心」や「感情」に阻まれたりする。それは冷静でなければ見抜けないものです。「心は買えない」などという空虚でお寒い精神論を振り回しながら、反ライブドアの流れに身を任せつつ感情的に事態を見ているようでは本質的な報道は不可能です。

自分以外の業界や会社については、普段偉そうなことを並べ立てている割りに、自分に向かってきたとたんに冷静さを欠き感情的になってしまう既存メディアの幼さは、自分が既存メディアの端くれに身を置いているだけに、分かりすぎるぐらい分かって、トホホな印象です。護送船団で守られ、泰平の世をむさぼってきた既存メディア人にとって、「新聞は読んでない」などと言ってしまうほりえもんのような存在が気に障るのは理解できますが、感情が先走った「攘夷論」(byカトラー氏)では自らの頭の悪さと守旧派振りをさらに宣伝してしまうだけです。

しかし、そもそもライブドアが買った株はニッポン放送株。ニッポン放送の社長や社員の発言、インタビューも見たい気がしますが…