ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

勝負の分かれ目

「新聞は総合情報産業を目指す!」。落ち目の新聞業界のあちこちで聞かれる言葉ですが、真の意味で情報産業であることを理解している人は少ない…

勝負の分かれ目」(著・下山進)は「情報」から「カネ」を生み出す総合情報産業とは何かを、丹念な取材で明らかにした渾身のノンフィクションです。ニュースだけでは売れない。そこにどう付加価値を付けるのか。このような議論は古くて新しいのだと理解することができます。私は、この本がタイトルで損をしている気がします。読んでみると中身は非常に濃いのですが、何について書かれているのか一見して分からないためです。


勝負の分かれ目〈上〉 (角川文庫)

<上>では主にロイターと時事通信について書かれています。下山氏は、まず最初にロイターがただの通信社ではないことを「ロイターリーディング2000−2」という『箱』を紹介しながら明らかにします。ロイターが世界全体の外国為替取引の「市場」を持っていること、そしてその手数料によってロイターが莫大な利益を得ていることを… それは長い長い物語のプロローグです。時事通信社は? 戦中に国策会社として作られた同盟通信社は戦後2つの会社に分かれます。ご存知の通り、共同通信と時事通信です(両社がなぜ電通の株を持っているのかも分かる)。共同はニュースを、時事は経済、市況と出版部門を担当するという決定にショックを受けつつ社長になった長谷川才次はやがて独裁者となり、激しい組合闘争が巻き起こり、その中でチャンスを失っていきます。


勝負の分かれ目〈下〉 (角川文庫)

<下>では、日本経済新聞社のことが触れられていますが、総合情報化路線を進めた社長の森田康がリクルートで失脚します(その失脚で社長のイスを得た鶴田卓彦が子会社手形乱発事件と愛人問題で失脚するのも皮肉。NHKといい、マスコミはスキャンダルでしかトップが代わらんのか???)。そして、時事を退けて株価情報を手に入れていた日経関連会社QUICKはバブルに踊る…


下山氏は世界経済がグローバル化していく過程と通信社などのメディアの対応について書いているのですが、非常に内向きでドロドロした世界が必ず引っ付いている。世界で起きる「変化」に目を向けず、内部闘争を繰り広げている組織はダメ。分かってはいるが難しい。特にマスコミは、再販制度記者クラブブルームバーグ記者クラブ加入時の対応も書かれています)など既得権益で保護されている産業なので競争が少ない。それゆえに、内向き人間が多くなってしまうのかもしれませんが、それでは今後市場が開放され、真の競争が訪れた際には生き残れないでしょう(内向き人間は日本の組織に共通する問題点かもしれませんが…)。そして、一度でも技術に手を染めれば、永遠に技術革新を続けなければならないということも忘れてはいけないでしょう。


例えば、「ライブドアなどは本当のジャーナリズムではない!」などと考えているジャーナリズムを特別視する頭でっかちの人たちも多い。本の中には、「これはカジノだ。ロイターがカジノを経営するのか!」とロイターが「市場」を持つことに編集部門の幹部が反対して叫ぶシーンが紹介されています。けれども結局は… 今でもロイターは経済ニュース以外にも、世界各地のニュースを伝え続けています。ロイターはジャーナリズムを担っていないのでしょうか?(ここで、ジャーナリズムという言葉の意味を細かく定義するつもりはありません)。


ライブドアも、信頼できる情報を発信し続ければ報道機関として認知されるでしょう。「ジャーナリストはカネ儲けを考えるな」「今のマスコミはカネをもらい過ぎているから堕落した」などとトンチンカンなことを言う人がいますが、志だけで報道し続けることはできないのです。