ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

「素晴らしき世界」で起きたこと

地方記者によるブログ「素晴らしき世界」(現在は事実上閉鎖)が大変なことになっているに気づいたのは3日の午後でした(コメントを頂いた)。「素晴らしき…」のミッドナイトパックス氏が、スマトラ沖地震に絡めてイラク人質事件の「自己責任」や政府の対応を書いたことに、多くのコメントが付き、いわゆる「祭」状態となっていました。2ちゃんにスレッドが立ち、記者の実名を探し始めたのに対応して「素晴らしき…」から過去記事が消されるところまではリアルタイムに見ていましたが、そこで用事がありパソコンから離れました。久しぶりにチェックしたところ、記者の実名が突き止められていました。ミッド氏の書いていることや対応にはかなり問題がありましたが(きちんと対応すればここまで行かなかったとは思う)、私自身も匿名で書いている地方記者であり、「地雷」を踏むとこうなるのか…という恐怖は残りました。

「素晴らしき…」の過去記事が消えてしまったため、私の技術レベルでは細かな議論の内容を再確認できないのですが、関連するブログがありますので、この騒動を知らない方はまずそちらをお読みください。*当事者の一人であるカリー氏のブログ上での「まとめ」、芸能問題総合研究所ANNEXの「被災者の方々へお詫びします」など。


「自己責任」という言葉についてかなり議論が起きていたと記憶しています。ミッド氏はイラクへの自衛隊派遣に反対したり、日本のいわゆる「右傾化」に危機感を持っていたようですが、仮にイラク人質事件の際の問題点を洗い出すためだったとしても、イラクの人質とスマトラ沖地震で亡くなった被災者の人を「自己責任」という言葉で同列に扱うことはできないはずです。イラクは紛争地域で相当リスクが高いことは多くの人が共通認識として持っていたはず。それに対して、スマトラで地震が起きてモルディブに津波が来るとことは「まさか」のレベルでした。リスクを承知でイラク入りした人たちは、まさに彼らに責任があった。もちろん、世の中には「まさか」があります。確か保険のCMにありましたが、家にUFO(さすがにUFOはないにせよ飛行機が墜落だとか車が突っ込んでくる)が落ちてくることもあり得ないとは言い切れない。例えば、私の家は台風で被害に遭いましたが、それも土地の低いところに家を建てた私の家族に責任があるし、地震大国日本で地震保険に入っていなかった人にも責任があるなど、究極的な意味ではあらゆることが自己の責任になってしまうのですが、スマトラ沖地震の被災者を例に題して政府の対応を批判するのはスジ違いというものでしょう。


私が注目したのは、ミッド氏の言動と対応です。ミッド氏は宮台真司的に言うならば「能天気左翼」ということになると思います。宮台氏は『国家権力は悪で国家権力に抑圧される私人や市民がいるという発想ではだめ』『絶対反対というのは思考停止で気持ちよくて楽ちん』(本日廃刊 …となる前にから抜粋)と思考停止の左翼人の言動が現状をどんどん悪化させていることを警告しています。これは、私が「忍び寄る影」で書いた市民団体についての指摘と共通していると思うのですが、ミッド氏にも同じようなニオイを感じました。問題意識や危機感がありすぎるが故に先鋭化してしまい、世の中が逆の方向に進むのに手を貸してしまう。そういう意味では、非常に罪が重いと思います。それに、批判した相手のIPを公開したり、「ウイスキーを飲んで寝よう(でしたよね?)」と言ってみたり、打たれ弱かった上に誠実さがありませんでした。それが一部のブロガーや2ちゃんねらーたちの怒りに火をつけたのではないでしょうか。最後は、ブログを事実上閉鎖してしまいました。それでは元も子もありません。言いたいことがあるなら、ブログで言い続けるべきだったと思います。もちろん、間違えていると思うなら素直に謝るべきでした(多分、間違えたと思っていないので閉鎖したのでしょうが)。


ただ、「気に入らない意見」や「間違えている意見」を言っている人がいても、それはその人の意見。100人が100人とも同じ考えにはならないはずです。実名をあばいた人たちがどのような意図であったのか、IPを公表されてあばきかえしたのか、単に「祭」を楽しんでいたのか、実名を公表することでミッド氏に圧力をかけようとしたのかは分かりませんが、結果的にミッド氏の実名はあばかれてしまった。IPを公表された人が対抗措置を取ったのなら理解できなくもないですが、そうでなかったのだとすればやり過ぎだったのではないでしょうか? この話題を取り上げるブロガーが少ないのもその「恐怖」からではないでしょうか。いつ「地雷」を踏むかは分からないわけですから(この記事だって踏んだかも知れないと思うと不安が一杯)。


共同通信の署名ブログのように、「祭」の後は当たり障りのない内容になってしまう場合も多いですが、出来ることならミッド氏がブログを再開することを願っています。私は「書き続けること」こそ大切だと考えています。