ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

取材の現場から3:「ここだけ新聞」にガッカリした

記者による中越地震リポート。現地の状況は絶えず変化しています。筆者の考えが変化したり、表現にブレが生じる可能性が高いため、継続して読んで判断してもらえると助かります。
◆Aカメラマン◆
北海道新聞新潟日報に支援派遣したマイクロバス型の移動支局車「道新ぶんぶん号」が被災地に入って活動している。
この車のすることは簡単にいえば現地新聞作り。A3カラー裏表の「ここだけ新聞」を作っている。システム運用のために道新より派遣された技術スタッフ数名に、地元の新潟日報から記者2人が携わっている。
10月31日付け「小千谷小避難所・ここだけ新聞」。表面は「お祝いお預けバースデー」の見出しを立て、26日に満一歳をむかえた赤ちゃん「ひなたちゃん」の話を導入に、避難所生活が紹介されている。写真は子供たちが中心でほほえましい。裏をめくると「阪神淡路大震災からの応援メッセージ」そして「地震に負けずがんばろう」となっている。
この新聞をみて私はものすごくガッカリした。避難所紹介はその避難している人々を応援する意味もあり良いと思うが、裏面は本紙朝刊の記事とほぼ同じ。それでは、小さな地域に限定して出せるコミュニティー新聞の意味がない。
この日いくつかの小さな避難所をまわって、被災生活を送る人々話していて、てっきり知っていると思っていた国道17号の開通情報や十日町市で入れる温泉を知らなかった。こんなことは小千谷総合体育館のような大きな避難所以外ではあたりまえの出来事だ。
せっかく「ここだけ新聞」なのだから、この地域の入れるお風呂情報、近所の大きな避難所の炊き出し情報、生活道開通案内、この店再開しました、高速バスの臨時ダイヤ、仮設住宅現状情報、この地震で大きな問題になっているエコノミー症候群にならないための体操(図解つき)を載せたほうがいいと思う。
もし、取材力が足りないのであれば、新聞販売店に協力してもらうとか、新聞社の組織を総動員すればいい。ハード面ではこの車は非常に魅力的だ。しかし、今の運用では、祭りの会場で「よさこいそーらん新聞」をだしているのなんら変わりがない。イベント会場であればこのスタイルの新聞は意味があり喜ばれるだろう。が、被災地の避難所までわざわざいって「ただ喜ばれるだけ」のものを作る意味があるとは思えない。移動支局車をこのタイミングで派遣した道新や忙しいのにも関わらず「ここだけ」新聞をだす新日には頭が下がる思いがする。
しかし、被災者の顔が見え、ニーズがつかめる場所に行くことができるのなら、その避難所の人々に役立つ「ここだけ新聞」を出してほしいとおもう。本当に、むちゃくちゃ良い取り組みなだけに悔しくて仕方がない。あと一歩ふみこむだけですばらしい物になるはずだ。(了)