ガ島通信

メディアとジャーナリズムの未来を追いかける

藤代ゼミ課題図書「メディアの今を理解するための7冊」2017版

代ゼミでは、春学期・秋学期のスタート時に、7-8冊の指定図書をゼミ生全員で読む「読書祭り」というイベントを行っています。春学期のテーマは「メディア」、秋学期は「ジャーナリズム」です。2013年に一度指定図書を紹介したのですが、少しずつ書籍を入れ替えているので、改めて2017年版を紹介します。

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さとなおの愛称で知られるコミュニケーション・ディレクター佐藤さんの著書。早くからウェブサイトを開設し、電通在籍時代はその名を冠した「サトナオ・オープン・ラボ」が開設された第一人者。冒頭のラブレターの話から、分かりやすくインターネットの登場によって変化するメディアと人々との関係を描く。スラムダンクの事例など、広告、メディアへの愛あふれる本。まずは、この本からスタートです。

人工知能(AI)による記事作成、名場面の自動編集、広告配信など、メディアに関係するAIのニュースもたくさん報じられるようになりました。分かるような、分からないような…言葉だけが先行しているようにも見えるAIについて整理されている分かりやすい入門書。ゼミでは、機械学習を用いたニュース研究もやっているので、他のチームでもこの本の内容ぐらいは分かっておいてもらわないと、という感じです。かなり分厚いですが『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』をじっくり読むのもいいでしょう。

社会学者北田さんの著作、2002年に出版、2011年に増補版が出ています。パルコに代表される80年代的な広告に触れながら、巨大なメディア空間である都市の変化を追っています。広告論としても読めますが、都市論としても面白く読めます。2020年の東京オリンピックに向けて大きく変化する渋谷、そして東京を見ながら、この本で80-90年代を振り返るというのはとても意味があると思い、今年からラインナップに加えました。『都市のドラマトゥルギー』の併読をオススメ。

活動家であるパリサーは、グーグルの検索結果が閲覧履歴によってひとりひとり異なり、他の人が見ている情報ではない自分の好きな情報に囲まれるフィルターバブルが起きていると警告しています。2011年に出版、邦訳は2012年と、フェイクニュースやネットによる社会の分断が話題になる前に書かれているので、やや細かいところが気になる方もいるかもしれませんが、見通しが興味深いです。

「予言の書」と言われるこの本は、「ほぼ日刊イトイ新聞(ほぼ日)」を始めたばかりの糸井さんが、ネットでつながるという価値や社会の変化について2001年に「やさしく」書いたものです。読んだ時に「なんだ、当たり前のことを書いている」と思い、発行年を見て驚いたのを思い出します。「おいしい生活」という西武百貨店のコピーを生み出し、消費文化の担い手となった糸井さんの経歴を踏まえ、インターネット的を読んでから『広告都市東京』を読み直すと新たな気付きがあるでしょう。

ソーシャルメディアスマートフォンが登場した社会を俯瞰的に捉える本として鈴木さんの「ウェブ社会のゆくえ」を選びました。鈴木さんは、現実空間の中にウェブが入り込むことで、公私の境界があいまいとなり、目の前にいる人ではない人と携帯でつながるような「多孔化」を生んでいると指摘しています。社会学、メディア論として学ぶところが多くあります「多孔化」した社会をどう生きるのか、自分の「リアル」に引きつけて読んでもらいたい一冊です。

例年、最後に読んでもらう不動のトリ本がこちら。著名な文化人類学者で、国立民族学博物館の初代館長、「情報産業」という言葉の名付け親の梅棹さんの短編をまとめたものです。7冊の中で最も古いのですが、いまだに色褪せない情報に関する深く、鋭い洞察が並び、読みなおすたびに新しい発見があるまさに名著です。多くのゼミ生が苦戦するのですが、何度も読み返すうちに理解が進みます。簡単に読める本なんてつまらない、歯ごたえがあるから面白い。文体や事例が古いのに「今」なんて分からないではなく、共通項を見出して欲しい一冊です。

 

書籍の選択理由は、読みやすくインターネットやソーシャルメディアの登場によるメディアの変化や構造が理解できる、社会とメディアとの関係や課題が書かれている、実践にあたり参考になる、Amazonの中古で安価に売られている、です。 例えば、キャス・サンスティーンの『インターネットは民主主義の敵か』も良いのですがAmazonで見ると高騰しているので手が出ません…なお、『明日の広告』、『ウェブ社会のゆくえ』、『情報の文明学』の三冊は読書祭りスタート時から変わらずに残っています。

  

秋学期の「ジャーナリズム」課題図書は以下の記事を参考にしてください。今年はジャーナリズム関連の良い書籍が多く出版されているので入れ替わる可能性が高そうです。

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【目次公開】『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』が1月17日に発売されます

2017年1月17日に『ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか』が光文社から発売されます。パソコンからスマホへとニュースの主戦場が移り変わる中で、ヤフー、スマートニュース、LINE、日本経済新聞、ニューズピックスの5つを取り上げ、攻防を描いたものです。

ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか (光文社新書)

ネットニュース版「メディアの興亡」(新聞社が活字と印刷にコンピューターを導入していく様子を日経新聞を軸に描いたドキュメント)のような本を書いてみたいと構想し、取材をスタートさせ、夏頃にはおおまかな原稿は出来ていましたが、アメリカ大統領選挙DeNAまとめサイト問題、が相次いで起きたことで、偽ニュースをもうひとつの軸に再整理して、発売となりました。

日本ではメディア企業の内部がまとまって書籍になることが少ないのですが、多くの方の協力を得て実現することができました。以下に目次を紹介します。

<<目  次>>

はじめに――「偽(フェイク)ニュース」が世界を動かす

フェイスブックがトランプ大統領を生んだ?/日本でも広がる偽ニュース/虚構に気づかぬアルゴリズムの心地よさ――フィルターバブル/アルゴリズム時代を生き抜くリテラシー

第一章 戦争前夜 偽ニュースはなぜ生まれたか

新聞社がニュースをタダにした/崩れたマスメディアのニュース独占/流通経路を握ったプラットフォーム/ヤフーという毒まんじゅう/新聞が支えたネットニュースの質/ライブドアのニュースメーカー戦略/個人の意見がニュースになる/新聞少年の裏切り/ソーシャルメディアの登場とゲリラ戦/スマニューの登場と王者ヤフーの焦り

第二章 王者ヤフーの反撃

ネット王者のジレンマ/人間にしかできない編集/ソーシャルメディア対策の失敗/消えたトピックス/ニュースの流れを変えたヤフー個人/「ピューリッツァー賞を目指す」/権力と戦い、書き手を守れるか/毒まんじゅうが招いたステマ/覚悟なきメディア宣言/「ヤフーは嘘つき」の意味/利益誘導のステルスニュース/ニセモノは本物になれるか

第三章 負け組LINEの再挑戦

一般ユーザーはニュースを読まない/ニュースは連続ドラマ/やわらかい編集部/地方紙を取り込み、ヤフーを切り崩す/「断片化した世界をつなぎたい」/ネット論壇の理想と炎上/猫とジャーナリズムという二面性/国家とニュースメディア

第四章 戦いのルールを変えたスマートニュース

脱オタクのためのニュース/ネット界の実践思想家/フィルターバブルを乗り越える/幻のサービス名「ニュースどうぞ」/記事のタダ乗り炎上をヤフーが拡大/ベテラン編集者による火消し/20世紀メディアからの決別/記者ゼロの21世紀メディア/アルゴリズムの限界/ねこチャンネルに勝てるのか/大本営発表の危険性/ビッグ・ブラザーか、民主主義の基盤か

第五章 課金の攻防・日本経済新聞

イノベーションのジレンマ逆張りの男、逆出向する/4000円という値付けに失敗を予想/頭取をブロガーに起用/社内を巻き込む方程式/勝負の分かれ目だった2010年/iPhone は新たなプラットフォームだ/スマホ時代は開発力が競争力/紙のカルチャーを変える/東日本大震災が変えたソーシャル対応/消えた旧サイト、日経ネット/パッケージは死なない/日経電子版の死角

第六章 素人のメディア・ニューズピックス

投資銀行出身者の素人メディア/記事を選ぶのはユーザー/意識高い系ニュース/NOピック運動の勃発/永続的なコミュニティという挑戦/引きずっていた成功体験/プラティッシャーの特ダネ/巻き起こったコンテンツ泥棒批判/メディアとプラットフォームの分離/有料モデルは成立するか/ライバルは日経……ではない/大手町、丸の内を取り込めるか

第七章 猫とジャーナリズムと偽ニュース

猫画像で人にニュースを感染させる/キメラという怪物の出現/暴かれた偽ニュース製造工場/ステマに見る自浄作用の乏しさ/ミドルメディアが「世論」をつくり出す/騙される人、逮捕される人/汚染に立ち上がる広告主/ジャーナリズムの新たな役割/人材育成の必要性

インタビュー

無料ニュースは微生物メディアになる(山本一郎

思考を続ける強い記事を出し続ける(石戸諭)

大前提はコンテンツの適正価格での提供(新谷学)

おわりに

ただいま予約を受け付け中です。 

ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか (光文社新書)

ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか (光文社新書)

 

 

自由のためのルールづくり「ネイティブ広告ハンドブック」の意味

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日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が公開した「ネイティブ広告ハンドブック2017」に関して、私のツイートが騒動になるきっかけを作ってしまったことをお詫びします。既に、境治さんや、ふじいりょうさんが、ハンドブックの位置付けや課題について記事を公開していますが、私なりにハンドブックとガイドラインの意味を説明しておきたいと思います。

問題を起こし続けているネット企業

前掲した2人も書いているように、JIAAがガイドラインやハンドブックづくりを熱心に行っているのは、消費者庁との関係性が大きく存在しています。その先には消費者の姿があります。

ネットはスマートフォンの普及などにより、幅広い年齢、地域、にも利用されるようになり、消費者に大きな影響を与えるようなってきています。「ウソをウソと見抜けぬ人でないと掲示板を使うのは難しい」と言われたように、ネットの情報は玉石混交でリテラシーが求められるとされてきましたが、利用者が増えると、当然ながら多様なリテラシーの人たちである、青少年や高齢者、障害者など、誰もが安心して利用できる環境づくりが求められるようになってきます。

しかしながら、ネット企業・業界は十分に対応しているとは言えません。そこで消費者の保護に取り組む消費者庁が動き出したのです。消費者庁がネットの情報を問題視したものに「ステルスマーケティング(略称ステマ)」があります。

2012年に起きた食べログステマ問題は、口コミであるレビューをお金で買っており消費者からの信頼が揺らぎました。さらに、詐欺事件に発展した芸能人ブログステマペニーオークションソーシャルゲームにおけるコンプガチャ問題もありました。

マスメディアの場合もトラブルが無いわけではありませんが、各種団体でのルールづくりや媒体内での広告審査の蓄積などがあり、課題があれば対応が可能です。一方、ネット・ネットメディア業界は、従来のメディアではない人たちが参入し、ビジネスに関わることで、これまで積み上げてきた消費者保護のルールや蓄積は通じず、消費者が混乱する要因となっているのです。

健全化に努めるJIAAの危機感

この状況を改善するため、JIAAは会員社を拡大してくとともに、新たなステマの温床と指摘され始めたネイティブ広告の問題に取り組みます。2015年3月に「ネイティブ広告に関する推奨規程」というガイドラインを発表し、ネイティブ広告への広告表記、広告主体者の明示を定めます。定義や守るべき規程を定めて、混乱を収束させてビジネスのルールを作ってく動きです。

そこで起きたのが、CINRA.NETによる「ネイティブアドよ死語になれ」騒動です。

この騒動は、社長がJIAAの役員でもあるヤフーが、ステマ記事を排除する方針を明確にし、さらに社内調査も行うという徹底した方針を示したことで流れがつくられていきます。その結果、CINRA.NETはガイドラインに沿って媒体運営をすると方針を転換したのです。

規制が入れば、当然ビジネスの自由度は下がります。その危機感は、ハンドブックの48ページにも記されています。

このネイティブ広告市場を長期に渡って生きながらえさせるものにするのか、それとも短期的なブームにしてしまうのか、それも業界関係者がこの市場をどのように扱うかによって決まってしまうのだということも理解しておきたい。

そして、自主規制の意義についても39ページから41ページにかけて書かれています。 

2. 業界の自主的な規制の意義

法令のような強制力や罰則はないが、ビジネスを取り巻く環境の変化に応じて柔軟かつ機動的に対応できるメリットがある。何よりも、業界の自主的な取り組みにより一定の規律を課すことが、メディアや広告の自由度と信頼性を確保し、価値を高めることにもなることを強調しておきたい。

 

ガイドラインは「事後」では機能しない

食べログステマ問題の際、私はアジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦さんやビルコムの太田滋さんらと立ち上げたWOMマーケティング協議会(WOMJ)のガイドライン委員長として、ガイドラインをまとめた立場でした。

業界団体として消費者庁総務省との情報交換を行いましたが、WOMJは口コミのガイドラインを2010年に発表していたことで、規制の強化を逃れることが出来ました。事前に自主的な取り組みを行っていたことで、前向きに話し合いが出来ました。

逆に問題が起きた「事後」にガイドラインを作るなどの対応を行ったことで、大幅にビジネス活動の自由度が下がったのがコンプガチャ問題です。コンプガチャでは、ソシャゲ業界の対応が後回しになり、企業の足並みも揃わないなど業界内でのゴタゴタがあった結果、消費者庁景品表示法に抵触することを明言、急速にビジネスがシュリンクしました。

業界の自主規制は法律ではありません。だからこそ、業界が率先して課題解決に向けて動き出していると、監督官庁だけでなく、消費者から見える・理解できることが重要になるのです。

JIAAによる熱心な取り組みにも関わらず、ガイドライン制定後も会員社による問題は起き続けています。食べログは検索結果に広告と表示せず問題になり、サイバーエージェントも広告表記を行っていませんでした。

自主規制というのは、業界に自浄作用があることが前提であり、JIAAがガイドラインを浸透させることができるか、疑われかねません。

弁護士の板倉陽一郎さんは「消費者法ニュース」に「ステルスマーケティングの法的問題」を執筆しており、ステマをめぐる問題、自主規制の動きが整理されています。そして自主規制が効かない場合は規制が必要になる可能性があると指摘しています。

4立法上の課題

ステルスマーケティングについて、自主規制が奏功しない場合には、立法による規制が必要となることも考えられる。

消費者から見ればライターも「業界」のプレイヤー

では、ライターとガイドラインやハンドブックにどのような関係があるのでしょうか。

ライターは記事を書くだけでなく、最近では記事スタイルの広告も書く場合もあるでしょう。JIAA会員社のパブリッシャーや代理店との依頼などにより、広告制作の仕事をする以上は、当然ながらガイドラインやハンドブックを理解し、尊守しながら広告を制作してく必要があります。分かりにくいと言っている場合ではありません。

ライターは広告業界に所属していないかもしれませんが、仕事をしている以上は、消費者から見れば「業界内」のプレイヤーであり、直接触れる情報を作り出している人たちです。そのような立場でありながら「我々は広告業界ではない」というのは通用しないでしょう(もちろん広告に関わらず、記事だけ書いているライターはこの限りではありません)。  

さらに、広告制作の現場から、業界が定めたハンドブックを揶揄するような意見が出たり、そのような意見を持つかのように見られるライターに広告制作を発注している状況では、JIAAが自主規制を有効であると消費者や消費者庁に証明することは出来ないでしょう。

自分自身が書き手でありながら、WOMJを立ち上げたり、JIAAの活動に関心を持っているのは、良いコンテンツを作るためには収入を確保できる適切なビジネスモデルが立ち上がる必要があるからであり、規制の「防波堤」となり、表現や言論の自由といったものを守ってくれる存在でもあるからです。

ルールをつくり自由になる

状況が改善されなければ、規制が強化されたり、ガイドラインなどを尊守しているメディアと、そうでないメディア、尊守しているライターとそうでないライター、が消費者から明確に分かるような仕組みを導入しなければならなくなるかもしれません。

分断は望みませんが、 ネット業界のお行儀の悪さは、すでに「何度目」かのものであり、今回が初めてではありません。最近ではキュレーションサイトの問題も指摘されています

困難な中で新たなルール作りに取り組んでいるJIAAの関係者の皆様に敬意を表するとともに、ネットを誰もが安心して利用できる環境になるように、私自身も何らかの形で力を尽くしていきたいと思います。

「Computation Journalism Symposium」で感じたジャーナリズムとテクノロジー融合の未来

スタンフォード大学で開催された「The Computation+Journalism Symposium 2016」 に参加してきました。タイトルは「 Make it go viral - Generating attractive headlines for distributing news articles on social media 」で、藤代ゼミがNTTコミュニケーション科学基礎研究所(CS研)と行っている共同研究によるものです。昨年のデータマイニング系の国際会議CIKMに続いて、海外で成果を発表できました。

シンポジウムは、データジャーナリズム人工知能による記事やタイトル編集といった、テクノロジーとジャーナリズムが融合した分野の研究成果や実践がテーマ。

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参加者もニューヨーク・タイムズワシントン・ポストといったレガシーメディアのジャーナリストや研究者だけでなく、バズフィードやグーグルなどからと幅広いものでした。初日は会場の座席が全部埋まり、床に座って見ている人もいて盛況でした。

発表が割り当てられたセッション“How to Grab Attention”は、リオ五輪で話題になったワシントン・ポストの速報ボット、同じくワシントン・ポストのヘッドラインのサジェストシステムと一緒でしたが、これらは非常に興味深いものでした。

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ワシントン・ポストの発表者のどちらも大学でコンピュータサイエンスを専攻していました。

www.nikkei.com

このシンポジウムに限らず、国際会議のパネルや論文を見ると、特にアメリカを中心に、メディア内にいるコンピュータサイエンスの研究者やデータサイエンティストから、ニュースのタイトルやどう読まれるかや拡散に関するの研究が出始めています。

例えば、データマイニング系のトップ級国際会議KDDでは「How to Compete Online for News Audience: Modeling Words that Attract Clicks」という論文が出ています。執筆者はヤフー(Japanではない)と韓国の理工系トップ校KAISTの研究者です。

一方、日本では、メディア側もテクノロジーに興味が乏しく、研究者側もあまり盛り上がらず…というところなのですが、ジャーナリズム✕テクノロジーの分野は世界と戦える分野なのではないかと思っています。

真正面からデータマイニングやAIの研究をしても、アメリカ、中国、シンガポールの研究が圧倒的に強いわけです(昨年のCIKMでも日本からの発表者は非常に少なかった)。タイトルのサジェストや記事の要約、自動作成などは、確実に進んでいます。大切なことは技術をより良い報道、社会のために利用することで、コンピュータサイエンス側だけで進んでいく状況には危惧があります。

日本は報道に関する制約も世界に比べると少なく、ソーシャルメディアの利用も活発、コンピュータサイエンスの研究者のレベルも高く、条件が良いです。一緒に研究に取り組んでくれる企業や研究者を募り、ジャーナリズム✕テクノロジーの研究拠点を作って世界を狙っていきたいところです。

メディアのイベントなどにいくと、アメリカなどの海外事例をありがたがる「出羽の守」(アメリカでは、イギリスでは、という人のこと)人もいますが、未来というのは自ら切り開くものです。

その他、シンポジウムの様子も少しご紹介。2日間とも8時30分からスタート。建物の外に、パンやコーヒーなど軽食が並びます。初日は広大なスタンフォード大学内で迷子になるという失態…  

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ランチはGoogleニュースラボによるサポート。ケータリングが意外に美味しくて嬉しかった。

1日目の最後はいくつかのデモを囲みながらビール&ワインの交流会。日本からスタンフォードに留学して、たまたまシンポジウムを見た方に声をかけてもらい、少し話が出来ました。

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写真では半袖の人がいますが、肌寒くてビールを飲む気にはなれませんでした…

参考:昨年のCIKMの発表論文はPDFが公開されています「Identifying Attractive News Headlines for Social Media

ネットメディアで問題が相次ぐのは「ネットだから」で許される時代が終わったということ

このところネットメディアに関して、編集でも、広告でも、相次いで問題が指摘されています。ネットの社会的な影響力が大きくなり、これまでのやり方が通用しなくなってきているのでしょう。時代が変化していく流れを感じます。

このところの動きをまとめます。

サイゾーが運営するニュースサイトの「ビジネスジャーナル」が貧困問題について、NHKの回答を捏造し、謝罪と処分を発表。

biz-journal.jp

まとめサイトのBLOGOSが、不適切な表現が含まれたブログを転載。削除とお詫び。

blogos.com

電通でデジタル広告において不正。未掲載や掲載期間のズレなどがあった。

www.dentsu.co.jp

記者会見の一問一答を報じた日経ビジネスオンラインによると、「掲載されるはずの期間に掲載されてないのでは」という指摘があったとのこと。掲載に関して期待した効果が上がってないので露出が行われているのかと疑義がでたようです。

business.nikkeibp.co.jp

 ユニリーバがインターネット動画サイト「AbemaTV」で放送された番組内でユニリーバの広告が流れたことに批判が起き、当該番組への広告出稿を止めるように広告代理店や動画広告ネットワークに要請。

www.unilever.co.jp

この編集と広告の動きは無関係に思えるかもしれません。しかし、実は共通項があるのです。

ひとつは、影響力が高まったことにより、これまで見過ごされたり、不問に付されてきたことが「問題」とされるようになったこと。もうひとつは、「事後対応」というネットの常識が問われているということです。

影響力が大きくなったからこそ、トヨタは効果を確認し、ユニリーバはリリースを出すことになったわけです。たぶん、これまでも電通で起きたようなことはあったでしょうが、発覚しなかったのは広告主が注視するほどの重要度がネット広告にはなかったからでしょう。正直、今回の不正の金額を見ても、大したことがないわけですが、それでも電通が調査するというのは今後の市場の成長を考えてのことでしょう。

「事後対応」です。ビジネスジャーナルは、自ら取材して記事を書くマスメディアと同じタイプですが、BLOGOSは(独自取材もまれに行いますが)はまとめサイトやプラットフォームと呼ばれ、「ネットにあるコンテンツを紹介しているだけ」という立ち位置で社会的な責任を回避してきました。

プラットフォームは、問題があれば後から修正、削除する、という「事後対応」をしてきました。そのビジネスを支えるのが広告ネットワークです。ページビューを稼いでお金を得るので、釣りタイトル、極論を展開する、といったコンテンツに走りがちになります。

デジタル広告は、特定の媒体や番組、時間に広告を掲載することが出来るマスメディアと異なり、ネットのさまざまなサイトに、さまざまな条件で広告を配信することが出来ますし、効果も測定できますが、配信先を確認するのは難しいのです。そこで問題が起きれば、こちらも「事後対応」してきたわけです。

「事前考査なんて出来ません。マスメディアとは違う」「ネットはこういうものです」そんなことを言うデジタル広告会社やネットメディアの関係者にも多く会ってきましたが、ユニリーバが直面したように、広告主のブランドイメージとは程遠いサイトや番組に広告が出てしまうと後の祭りです。

広告会社やネットワーク運営企業に「社会的な常識」があれば出さなくてもよかったリリースを出すことになってしまうのです。

マスメディアの広告考査や編集のチェック体制がなぜできたか、少し考えればわかると思います。影響力が高まり、ビジネスとしても注目されているからこそ、相次いで問題が指摘されているわけです。「プラットフォームだから」「ネットだから」という言い訳を捨て、「メディア」として信頼を高めて行く必要があります。一方、これまでのネットの常識を続ける企業や個人は、より大きな問題に直面することになっていくでしょう。

島根県益田市の真砂地区で2016年のゼミ夏合宿を行いました

代ゼミの4回目の夏合宿は、島根県益田市の真砂地区で行いました。『地域ではたらく「風の人」という新しい選択 』(ハーベスト出版)でご一緒した島根在住のローカルジャーナリストの田中輝美さんの紹介で、真砂のローカルメディア「真砂+」のコンテンツづくりをお手伝いすることになりました。

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出来るだけじっくりと地域を取材するために2班に分かれて1週間の滞在です。真砂はちょうど稲刈りのシーズン。段々畑が黄金色に染まっていました。

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ゼミ生の活動拠点となった民家。普段は使っていないそうですが、合宿のためにキレイに整えて頂きました。とても快適でしたがお風呂がない…

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そこで五右衛門風呂です。初日は地域の方に手伝って頂いて、薪でお風呂を沸かしました。風呂の底が浮いてます…

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お昼は真砂保育園で用意して頂きました。緑の中で、子どもたちと一緒に、地域でとれた野菜中心の食事です。

写真を撮った日は学会のために空港に移動する必要があったので遠巻きにしていたら、園児が手を引っ張って一緒に食べようと言ってくれました。

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 地区の運動会が行われるということで、この日に合わせて2班を入れ替え。合宿に参加する全員が真砂に揃い、運動会の準備、参加、片付けから懇親会まで、大活躍だったようです。

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ゼミ生は真砂を歩いて移動していたのですが、途中から見かねた町の皆さんが車で取材先やお風呂などに送ってくれたとのこと。また、猪肉やお米などの差し入れも頂きました。受け入れにあたり尽力いただいた関係者の皆様、そして真砂の皆様に改めて感謝します。

取材したコンテンツがまとまれば、このブログでもお知らせしたいと思います。

ちなみに、2回目のゼミ合宿は栃木県足利市で行ったのですが、地元のNPOコムラボの皆さんとは地域の情報発信講座などをご一緒しており、合宿を通じて各地とつながっていけるのもありがたいことです。

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メ社オープンゼミに向けてリ・パブリックでの「出張ラボ」実施中です

大学は夏休みに入っていますが、藤代ゼミは8月11日に開催される「メ社オープンゼミ」の運営・広報を担当しており、連日作業中です。

本拠地である法政大学多摩キャンパスでは、アクセスが悪く(時間に加えてバス代が重い負担)、21時までしか使えない(20時40分には警備員が警告にくる)ために、満足な活動が出来ないことから、湯島にあるリ・パブリックのオフィスを一時的にシェアさせてもらう「出張ラボ」を実施しています。

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時間的な制約がないので、じっくり考え、話し合ってチームの合意を作ることが出来ます。その中で、ぐっと成長する学生が出るのも面白いところ。ゼミ生は、近くの湯島天神に行ったり、ランチに行ったり、街を楽しんだりもしているようです。

「出張ラボ」は単に作業の時間を確保するためではありません。

慌ただしくゼミを終え、バイトやサークルに向かう学生たちに、一つのことにトコトン向き合って行くことで、体系的に物事を捉える力が作られ、自分の軸足が定まっていく経験をしてもらいたい、という想いがあります。

授業が終わるとキャンパスから潮が引くように学生がいなくなる多摩キャンパスを拠点にする中で、「学びの場」というものはどういうものであるべきなのかということを、考えるようになりました。事前にリ・パブリックの皆さんに、キャンパスの現状や問題意識を説明し、それならと快諾頂いたのでした。

「出張ラボ」はなかなか良い感じです。

リ・パブリックのスタッフやインターンとランチに行って話したり、ちょっと雑談したりして、お互いに刺激があります。知り合いが遊びに来てゼミ生にアドバイスをしてくれたり、OGが差し入れをもってやってきます。

学生は人と街に育てられるのだなと改めて思うのです。